HSC,HSPと鍼灸

 

皆さんはHSCという言葉をご存じでしょうか?

これはハイパー・センシティブ・チャイルドの略語で

直訳すると、「とても繊細なタイプの子ども」という意味の言葉です。

 

最近はASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー)やADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)と

色々な横文字が出てきて、また新しく増えたの!?と

ややげんなりして、意味だけを調べて本など読んでいなかったのですが

先日、書店で「子どもの敏感さに困ったら読む本」(誠文堂新光社・長沼睦雄著)という本が

平積みになっており敏感なお子さんや思春期の子が、よく治療に来られるので

遅ればせながら手に取りました。

 

本の始めに23項目のチェックリストがついています。

この項目の13個以上当てはまる、もしくは2~3個でもその特徴がかなり強ければ

HSCと考えてよいそうです。

早速、私も試したところ、大人になった今でも16個ほど当てはまり

HSCだったのかぁ、もっと早く知っていたかった~、としみじみしました。

 

本書ではHSCの子どもはASDやADHDのにくらべ「共感性」が強いのが特徴だと説明されています。つまり、「人の気持ちにとても敏感に反応する」ということです。

一見、これはいい性質のように思われますし、もちろん長所になりうるものですが、

これが裏目に出てしまうと、「人の気持ちにすごく左右されてしまいやすく、自我を持ちにくい」

という弱点になってしまうものでもあります。

 

たとえば、兄弟でお兄ちゃんが怒られているのに、

怒られていなくても近くにいた弟は自分も悲しくなって泣いてしまう

といったようなことが起こります。

親はすごく不思議に思いますが、弟はお兄ちゃんの痛みが

自分のもののように感じられたり、怒られたことを自分事に置き換えてしまっていたりします。

 

こういう子どもは、感受性がとても強いので、環境からの情報量が多すぎると

オーバーフローになり、「乖離(かいり)」といって、思考と感情、感覚がバラバラになる症状が出る、と書かれています。

 

実は、私も高校生のとき、乖離とは違うのですが、

少しこれと似た離人症症状が出ることがありました。

離人症というのは急に現実から切り離されたようになり、

生きているという感覚にリアリティがなくなって感じられる、というものです。

当時はなんだか分からなかったのですが、ストレスが原因で出る症状だそうです。

 

そんな経験が今の鍼灸師という仕事につながっているのですが

現在でも、人の多い閉鎖的な環境(ショッピングモールなど)に長くいると

同じような、状態になることがまれにあります。何かをすっぽりかぶされてしまったような

嫌な感覚になって、五感が鈍麻してしまうような感じです。

おそらく環境ストレスから起きる感覚麻痺のようなものではないかと思うのですが

そういう時、私の場合はシャワーを浴びたり、食べたり、お灸をしたりと体の感覚を

強く意識することで、もとに戻ります。

 

感覚が鋭敏、ということはいいことばかりではありません。

他の人からしたら「なんで?」と思われるようなことがしんどかったり

気になって仕方なかったりして、そのことのストレスと人に理解してもらえないストレスが

溜まっていきます。そんな自分の性質を知ることができれば、鋭敏さは長所として

活かしていけるようになるのだと思います。

 

話はそれましたがHSC、もしくはHSP(ハイパー・センシティヴ・パーソン)は

人口の20%ほどおり、病気や障害とはいえないが、生きづらさや、

理解されにくい過敏な感覚を抱えている、と本書にはあります。

なかにはスピリチュアルな感覚や、霊感のようなものを持つ人もおられるそうです。

 

うちの治療室はとくに感覚の鋭敏な方が多く来られる傾向にあるようですが

本当にまれに、お灸一個で劇的に心身の状態が変ってしまうような

超敏感な方がおられます。また、自分のことをセンシティヴではない、と思っているだけで

実はとても敏感な方もいらっしゃいます。

 

心がより敏感な方と、体が敏感な方、心身両方が敏感な方、それぞれ度合いはありますが

鍼灸はとくに目に見えない「気」を調整する側面もあるため、

過敏さで抱える心身のストレスを緩和させたり、時には過敏さを落ち着かせ

心身のバランスを保つのに、とても便利なものではないかと思います。

お家でお灸セルフケアをしてもらうだけでも、かなり変ってくる可能性も多いにあります。

 

西洋医学は客観的事実や数字、データを重視しますが、

東洋医学・中医学は患者さんの「感じていること」が診断において重要視されます。

数千年にわたって古人が臨床のなかで記録してきた膨大な経験値があり

顔色、脈、冷え、熱、痛み、重さ、驚きやすい、音に敏感など、細かい

情報を収集、統合して、体質を判別する方法が体系化されています。

今まで誰にも分かってもらえなかった感覚や症状を分かってもらえたり

対応策が取れるようになる可能性が十分にあると思います。

 

「子どもの敏感さに困ったら読む本」の著者、長沼氏は北海道でクリニックを開業し

児童のための脳と心と体の統合医療を行っておられるそうです。

そういうクリニックはまだまだ日本には少数なので

HSC、HSPの傾向があり、どうしたらよいのか困っている方は

一度、お近くの鍼灸院の門を叩かれてみてはどうか、と思います。

 

鍼灸を受けて良かった、自分の体のことやセルフケアの方法を知って

生活の質がずっと良くなった、と思ってくれる方が

一人でも増えてくれたら、これほど嬉しいことはありません。